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「アクスヘイム建国の大英雄を祖先に持つ名門、アックス家も堕ちたもの…か」
目を通していたニュースペーパーから顔を上げ、ふと言葉が漏れた。先日の大きな戦い、そして知人達の言葉を思い出したのだ。
アクスヘイムという都市の名は、元々は『アックス家の領地』を表す『アックスヘイム』であったというくらい、アックス家は名門中の名門の家柄だった。アクスヘイムに住まう古くからの貴族であれば常識にも等しい事であり、六英雄の子孫と言う事しか取り得の無い家とは言え、かの家の衰退を良しと思う者は少なかった。自分達の地位の為にも、歴史は必要だからだ。


「坊ちゃま」
遠慮がちに声を掛けられ、考え事を打ち切り顔を向けると長年仕えてくれている女中頭・ノーラと目があった。
「整いましてございます」
「あぁ、わかった。すまない、今行く」
短く応え、身体を預けていたチェアから身を起こし立ち上がると、ノーラが肩へと上着を掛けてくれた。ノーラは、そっと瞳を伏せ会釈をしてから先に立ち、扉を開けて立ち止まると、私を先へと促した。
この屋敷に仕えてくれるみなの主として、前に立ち伝えねばならない事があった。前々から伝えていた事ではあるのだが、再度伝えるのは少々が気が引けた。気怖じしている自分に気付くと、自然と自嘲の笑みを浮かべてしまう。
案じているようなノーラの目線に気付き、大事無いと呟いて、顔を上げて前だけを見つめ、部屋を出た。

「兼ねてより申していた事ではあるが、私はじきにこの屋敷を出て行くこととなる」
シンと静まった広間に、声が響く。
「屋敷、と言うよりも、この都市を」
広間に集めた全使用人達に聞こえるように、一つ一つの言葉を区切って、伝える。
前々から告げてあった為か、使用人たちから動揺の念は感じられない。
ざわつきもせず、静かなものだと思う。
「みなにはみなの家族があり、恋人、友人、とりまく環境があることだろう。みなの家族や愛する者、職を奪う心算は私には無い。今後も変わらず我が家に仕えてくれると嬉しい」
そう、自分に、ではなく。
「今まで良く私に仕えてくれたね、感謝している。みなは私の誇りで家族だ。どうか、幸せに過ごして欲しい」
幼いあの日の自分に着いて来てくれた者。この屋敷に住まうようになってから、新しく雇い入れた者。
一人一人の顔を見渡して、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「私からの話は以上だ。みな、時間を取らせてすまなかったね。仕事に戻って欲しい」
告げねば為らない事は、再度告げた。今まで考える時間も充分に与えてある。後を決めるのは彼らだ。
これ以上みなの時間を割かせることもないだろうと、上着を翻し踵を返す。
一同に最敬礼する気配を背中に聞き、広間を後にした。



「坊ちゃま」
「ノーラか」
控えめなノックの音が響き、いつの間にか伏せていた瞳を上げる。身を預けたソファから頭だけを動かすと、茶器を持った女中頭が自室に入ってくるところだった。
「お疲れ様でございました」
「疲れてなど、いないさ。――私の我が侭につき合わせて、すまないね」
いいえ、勿体無いお言葉ですわと優しい笑みを浮かべつつ、ノーラが茶器に紅茶を注ぎ差し出してくる。
香りを楽しみ口付けた紅茶は、優しい苦みを帯びていた。
「旦那様と奥様には……」
茶菓子の用意をしながら遠慮がちに口を噤むノーラに、ふと笑みが漏れた。
先日父母に会いに行った事はノーラも知っているが、その時の会話を伝えてはいない。
告げた言葉に、父はただ『そうか』と頷いただけであったし、母も『いいのよ』と笑っただけだった。もしも…そう、もしも自分が戻らなくとも縁者から養子を取るのだと。
エンドブレイカーの能力に目覚め他者とは違うことに気付いたのは、本当に幼い頃だった。いつからそうであったのか等の自覚もなかった。気付いたらそうであったのだ。自分がどこか他の人間と違う事は、父も母も気付いていたようで、あの時も父はただ『そうか』と受け入れてくれた。あの時だけではない。生前に親同士により決められた婚約者との婚約を破棄した時も、また他の時も…父はただ『そうか』と頷いたのだ。
9歳の誕生日の日に、父母から離れ一人で住まう為の家を望んだ。望みは受け入れられ、本邸と揃いの白い薔薇園があるマナーハウスを授かり、以降はそちらで暮らしている。
本邸にはわざと滅多に帰らなかった。何時か来る日に父母が、私が居なくとも悲しまないでくれると良いと思い、私は早い内から離れる事を望んだのだ。私が居ないことを当たり前だと思ってくれるようになることを願って。
父母は如何思って私の望みを叶えたのか…当時の私が告げた理由を鵜呑みにしたのか、告げなかった本当の理由を察したのか…今になっても私にはわからないことであり、聞けずにいることだった。
この命は、父母の為、家の為に捧げられる事を惜しく思った事は無い。だから私は今また離れるのだ。見過ごした物が、棘と言う毒に蝕まれ、大事な物を壊す危険を排除する為に。父母と家を、家に仕えてくれるみなを守る為に。
「父上も母上も、ご理解くださったよ」
「左様でございますか、よろしかったですわね。――坊ちゃま、これを」
「これは……?」
丸められた書状を差し出され、封を解き広げる。さっと目を通しただけで、書状が何を示しているのか理解する事ができた。
「ノーラ……これは……」
「誠に勝手ながら、既にこちらで手配をさせて頂かせております。じきに全て整いましょう」
「しかし、これは……」
困惑が隠しきれずノーラを見上げると、肘置きに置いた片手を暖かな両手でそっと包まれた。
「坊ちゃま?ばあやは、いついつまでも坊ちゃまのお側に。――やむを得ず残る者たちもみな、気持ちは同じ
 にございますわ。坊ちゃまがお話されたあの日から、使用人一同の心は決まっております」
「…………世話を掛ける事になるよ?」
「わたくしども以外、誰が坊ちゃまのお世話をできると思っておりますの?」
照れ隠しに口にした言葉に、今更だと笑われる。
長年女中頭として仕えてくれている老女は、自愛に満ちた瞳で優しく微笑んでいた。


書状には、家財や住居の手配、そして……多くの使用人達の名前が記されていた。





←----------------------- キリトリ -----------------------→
素直なアルさんは好きですか?
ボクは気持ち悪いと思いますです(`・(ェ)・´)きりっ

都市移動の依頼も出た事だし、UPしておくです。
因みに、前回のリアイベの翌日に書きました。←

元々都市移動があることはわかっていたことなので、キャラ登録した1月に決めていた事です。
なのでこれまで小話で、アルさんがいつ家を出て暮らしているかとか…ちらほら触れてきています。
どうして家を出たのかは、本人は「一人静かに勉強したいから」としか言わないけれど、本当はこういった理由だったのです。
色んな所での布石はここに繋がります。

…因みに、自分の顔を気にしているのも、他の理由があります。
ママン関係で書き途中なのがちょこちょこあるので、その内UPしよう…とは思ってる。
需要はないけれど!!ボクの設定メモ帳みたいなものですけどっ



愛し方は、人それぞれ。
大事だからこそ手放そうとする人もいれば、
大事だからこそ受け入れる人もいるし、
大事だからこそ自由にさせてあげようと思う人もいる。
大切だからこそ。
愛しく思えば、こそ。


アルさんはアルさんで不器用だけれど、パパンもパパンで不器用。
そんな二人を「うふふ」とママンが見つめています。


Familie Liebe:家族愛
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