EB
(室内に響くのは、時折聞こえる紙をめくるはらりとした音。
しかしその静寂も、長くは続かない。)
柔らかな銀髪を頭上に束ねた婦人が退屈そうに、ふぁっと小さな欠伸を漏らす。
猫足のカウチに半ば凭れる様に腰掛けて、未だ本から視線を動かそうとしない男を眺める。彼女がこの部屋に訪れた時から変わらずあのままだ。礼儀として挨拶等してはくれたが、またすぐに書物へと戻ってしまうのだ。
詰まらない。退屈だ。
堪らなくなって、声を掛ける。
彼女の一人息子は、彼女の言葉になら反応を示す事を知っていて。
「ねぇ、アル?あれは何かしら?」
「…本です」
羽付の婦人らしい扇を、部屋の到る所に置いてある本へと向け、問う。
しかし彼は、顔も上げずに小さく応えるのみ。
見もしないでわかるのかと問いたくもなるが、生憎この部屋にあるのは本ばかり。息が詰まってしまわないかしら、と婦人は小首を傾げる。
しかしその静寂も、長くは続かない。)
柔らかな銀髪を頭上に束ねた婦人が退屈そうに、ふぁっと小さな欠伸を漏らす。
猫足のカウチに半ば凭れる様に腰掛けて、未だ本から視線を動かそうとしない男を眺める。彼女がこの部屋に訪れた時から変わらずあのままだ。礼儀として挨拶等してはくれたが、またすぐに書物へと戻ってしまうのだ。
詰まらない。退屈だ。
堪らなくなって、声を掛ける。
彼女の一人息子は、彼女の言葉になら反応を示す事を知っていて。
「ねぇ、アル?あれは何かしら?」
「…本です」
羽付の婦人らしい扇を、部屋の到る所に置いてある本へと向け、問う。
しかし彼は、顔も上げずに小さく応えるのみ。
見もしないでわかるのかと問いたくもなるが、生憎この部屋にあるのは本ばかり。息が詰まってしまわないかしら、と婦人は小首を傾げる。
――
「ねぇ、アル?ではあれは?」
「…本です」
「そういうことではないわ。…では、あれは?」
「…本です、母上」
「……詰まらない回答。どんな本かくらい教えてくだされば良いのに」
素っ気無い息子の回答に、婦人は幼い子供のように頬を膨らませるも…
「私は詰まらない人間ですので」
「詰まらない、詰まらないわ」
またも素っ気無く返されてしまい、手近にあったクッションをポスポスと扇で叩き抗議をする。
それでも彼女の一人息子は顔を上げず、書物を読み続ける。頁をめくるペースも変わらずに。
詰まらないわ、とまた自然に言葉が零すと、見かねた息子が声を掛けてくる。
「……気になる本があるのでしたら、お読みに為れば宜しいのでは?」
尤もな意見ではあるが、彼女が求めているのは別のこと。
「それでは詰まらないもの。詰まらない、退屈だわ。
…そうだわ!あなたの昔話でもしましょうか!あれはアルトゥールがまだ…」
「!? は、母上!宜しければ私が音読でも致しましょう…いえ、是非そうさせて下さい」
息子の注意を引く簡単な方法を思い出し思うが侭に言の葉に乗せれば、書物から目を離さなかった息子が、慌てた調子で顔を上げた。過去の話をされるのが恥ずかしく思っているらしく、毎度こういった反応を見せているのだ。
あぁ、やっとこちらを見た、と笑みが浮かべると、彼は諦めたのか小さく溜息を付き、読みかけの本を閉じた。
しかし、こちらに興味を向かせると向かせるとで意地悪を言いたくなってしまうのは、彼女の性分。
「あら、アルトゥール。わたくしは母上ではありませんわ?」
言われた言葉を理解した息子の白い頬に少しばかりの朱が混じり、勘付いた彼は口元を手で隠しつつ顔を逸らしてしまう。見られたくは無いのだろうが、母としては詰まらないところ。
言葉の意味を理解した上で他所を向いた彼は、少々恨みがましい目で軽く此方を睨んでくるも、その姿も可愛く思え、婦人は嬉しそうに微笑む。
「……母上、意地の悪い事は仰らずに」
「母上ではありませんわ?」
「………。」
「アルトゥール」
小さく名を呼び、促す。
どう答えれば婦人が満足するのか、彼女の一人息子は知っていて逡巡する。
最愛の母である彼女を喜ばす事と羞恥が戦い、鬩ぎあっているのだ。
しかし、彼女は知っている。母である彼女に対して優しい息子は、いつでも最後は折れてくれる事を。
「………………かあ、さま。意地がお悪い、ですよ」
「あら?ふふ、あなたが可愛くて、つい。ごめんなさいね?」
暫くの間の後、彼が幼い頃の言葉を小さく呟いた。乙女の様に羞恥に白い頬を朱に染める姿が可愛くて、扇で口元を隠しながらクスクスと笑みを零す。息子が不機嫌そうに眉を顰めるのを知っていて、やめられない。
「…母様」
一人で笑っていると、彼女の一人息子に名を呼ばれる。
呆れた調子の息子に諌められるのが、嬉しくて溜まらず、また笑みを深くしてしまうのだ。
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アルさんはマザコンではありません。
ファミコンです。(家庭用ゲーム機に非ず)
息子は幾つになっても、母の掌の上。
幾つになっても、幼い日のまま可愛い我が子。
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