EB
名を呼ぶ声が、意識の端に。
気付いてはいたけれど、それよりも目の前の事に集中したくて遮断する。
重要度が高ければ、それなりに相手も行動に出ることを知っているから。
どれくらい経ったのだろう。
暫く後に書物から顔を上げたのは、名を呼ばれた云々ではなく、騒がしさに気付いた為だ。先程まで室内に居た使用人も、慌てた様子で外へと向かったようである。『彼女』もまた窓へと向かい、外の異変を警戒していた。
眼鏡をはずし文机へ置き、パタリと本を閉じる。こちらの動きに反応して『彼女』が近寄ってくるのを優しく撫で、高い天井まで硝子の嵌められたサンルームの様な窓へと近寄り、外を窺うが異変を目視するには至らない。
(…庭、か。)
己に害を及ぼすものならば使用人達が室内に残る事を考えた上で危険は無いと判断し、上着を掴みシュネーを連れて外へ出る。夏の気配はあるものの薄着の肌に冷やりとしたものを感じて袖を通さず肩に掛け、シュネーの為に背高な葉を避けてやりつつ、人の気配のある方へと向かった。
よく手入れされた薔薇園の奥、噴水の辺りで使用人達が整列していた。
噴水前には、よく知った顔ぶれの使用人達と、日傘の淑女とその付き人。
客など招いた覚えも無く、嫌な予感がした。
掲げた日傘で顔が見えなかったが、嫌な予感しかしなかった。
くるりと日傘が動き、こちらに気付いた淑女が嬉々とした声を上げた。
「――アルトゥール!」
気付いてはいたけれど、それよりも目の前の事に集中したくて遮断する。
重要度が高ければ、それなりに相手も行動に出ることを知っているから。
どれくらい経ったのだろう。
暫く後に書物から顔を上げたのは、名を呼ばれた云々ではなく、騒がしさに気付いた為だ。先程まで室内に居た使用人も、慌てた様子で外へと向かったようである。『彼女』もまた窓へと向かい、外の異変を警戒していた。
眼鏡をはずし文机へ置き、パタリと本を閉じる。こちらの動きに反応して『彼女』が近寄ってくるのを優しく撫で、高い天井まで硝子の嵌められたサンルームの様な窓へと近寄り、外を窺うが異変を目視するには至らない。
(…庭、か。)
己に害を及ぼすものならば使用人達が室内に残る事を考えた上で危険は無いと判断し、上着を掴みシュネーを連れて外へ出る。夏の気配はあるものの薄着の肌に冷やりとしたものを感じて袖を通さず肩に掛け、シュネーの為に背高な葉を避けてやりつつ、人の気配のある方へと向かった。
よく手入れされた薔薇園の奥、噴水の辺りで使用人達が整列していた。
噴水前には、よく知った顔ぶれの使用人達と、日傘の淑女とその付き人。
客など招いた覚えも無く、嫌な予感がした。
掲げた日傘で顔が見えなかったが、嫌な予感しかしなかった。
くるりと日傘が動き、こちらに気付いた淑女が嬉々とした声を上げた。
「――アルトゥール!」
――
「…はは、うえ」
やけに乾いた声が出た。きっと苦虫を噛み潰したような表情をしていたことだろう。
それでも意に介する事は無く、
「アルトゥール」
日傘の淑女――母は、名を呼ぶ。
「ね、こちらに来て?もっとよく顔が見たいわ」
朗らかに、にこやかに。少女のように、無邪気に。
「――…はい、母上」
呼ばれるままに近寄れば、ご挨拶をして?と微笑み掛けられた。
小さく嘆息を漏らしつつ己に良く似た顔を眺め、腰と胸に手を添えて優美な姿勢で頭垂れる。
「…お久しぶりです、母上。お変わりない様で何よりです」
お決まりの口上を述べてから、手袋に包まれた華奢な手を取り指先にそっと口付けると、少女の様な嬉しそうな声を上げるのは、己によく似た母。
また自然と嘆息が漏れるが、一々気にしていては相手の思うが侭である為、極力気にしないように自然な動作で離れ、問う。
「本日はどういった御用向きで参られたのですか?」
「あら?息子を訪ねるのに、用向きが必要なのかしら?」
日傘を付き人へと渡し、はらりと豪奢な扇を広げ口元を隠しつつ笑み、そんなことより、と続けた。
「挨拶は御仕舞い?ぎゅってしてくださらないの?」
詰まらないわ、と頬を膨らませるどこか幼い仕草に、自然と苦笑が漏れた。
名を呼んで嗜める前に、腕が伸びてきて腕ごと抱きしめられる。苦笑はそのまま、溜息に変わった。
「あらやだ、アルトゥールったら痩せたのではなくて?」
「……母上…、淑女とは思えぬ行為だ。お戯れは程ほどに」
力いっぱい抱きついて肩口からぴょこんと顔を上げた母に呆れ顔で嗜めるも、嬉しいのよと微笑まれては言葉に詰まる。
どうしたものか、と畏まっていたノーラへと目配せすると、さも心得ていますと言わんがばかりに頷いて、
「――奥様。馬車でのご移動、さぞお疲れのことでしょう。お茶の用意をさせて頂きますので、そちらでアルトゥールさまとご歓談されてはいかがでしょうか。」
「あら素敵。それは名案だわ」
老いた女中頭の穏やかな提案に、母は目を輝かせ腕を放し手指を絡め祈るような姿を取り、ノーラへと微笑んだ。言葉に出さずとも流石はノーラね、との思いが伝わってくる。
やっと開放されたと心の内でノーラへ感謝を唱え、一息つき微笑を浮かべ、母が喜ぶようにと言葉を続ける。
「では母上、中庭の花々が一番見ごろの場所へ茶席を用意させましょう」
反応など見なくとも解っていた。己に良く似た容貌の母は、少女の様に微笑むのだ。
母が笑むのは素直に嬉しくて、作られた笑顔ではなく自然に頬が緩むのを感じる。
チラと使用人達へ目配せをし遣いを走らせ、母の付き人から日傘を受け取る。
「ご婦人、お手をどうぞ」
微笑と一緒に曲げた片肘を差し出して。
もう片方の手には母のお気に入りの日傘を。
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ハイデマリー=クラウゼヴィッツ(Heidemarie Clausewitz)
社交界の華と言われた美貌の持ち主。外面は良いけど、中身は……な、アルさんのママン。
アルママさんの襲来。暫くご滞在です。
アルママさんが来ると、アルさんが外出をあまりしなくなります。
アルさんのお顔とママンのお顔の話…何が嫌で何を気にしているのかは、また後日。
…ちょっと普通じゃないです。アルさんだもの。
ただ単に女顔が嫌って訳ではないのです。
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