EB
カチャリ。
茶器が鳴った。
妙齢の女中頭が主と呼ぶ男を見ると、男は気分を落ち着かせるように一口茶を含んだ。
「それで」
どうしたのかしら。男の隣に座した女が微笑みを崩さずに続きを促す。
男の戸惑いさえも楽しんでいるような顔付きの女主人に軽く頷いて、再度手元の報告書へと視線を戻した。
「アルトゥール坊っちゃまは、件の幼女に甘噛みされて喜んでいるようです」
美しい白薔薇の園に、茶器の割れる音が響いた。
茶器が鳴った。
妙齢の女中頭が主と呼ぶ男を見ると、男は気分を落ち着かせるように一口茶を含んだ。
「それで」
どうしたのかしら。男の隣に座した女が微笑みを崩さずに続きを促す。
男の戸惑いさえも楽しんでいるような顔付きの女主人に軽く頷いて、再度手元の報告書へと視線を戻した。
「アルトゥール坊っちゃまは、件の幼女に甘噛みされて喜んでいるようです」
美しい白薔薇の園に、茶器の割れる音が響いた。
腹を満たした幼獣がよたよたと歩く。
正しくは、歩いてはいない。歩けては、いない。
よたよた、よたよた。よろり。ころり。
まだ幼いその体はバランスが取れておらず、簡単に転がってしまう。その様を青年は先程から、右へ左へと目で追っていた。
幼獣が何を思って、どんな目的をもって動いているのか、まったく理解が出来ない。そのため、手を出して介助することも躊躇われ、ただ見守るだけに止めていた。
ころり。ころり。すてん。
前転でもするように転がって、ついには仰向けになってしまった。仰向けになったまま短い足をじたばたと動かしているソレは大層可愛らしく、つい頬が緩んだ。
運動をしているのだろうか。
幼獣の知識がなく、ただ首を傾げ見守る。何だかよくわからない行動だが、まぁるい毛玉がもそもそ動く様は可愛らしかった。室内に居るのは自分だけでないことも忘れ、毛玉の側に腹這いになり肘を付きながら、くすくすと笑みを溢す。
ばたばた。じたじた。みぃ。
困ったような声で鳴いた。どうやら運動ではないのかもしれない。もしかして、起き上がれないのでは。
そう思い立ち、微笑ましい気分のままに、手を貸してあげようと手を伸ばした。
「?!」
がしっ
小さな二つの前足で、がっしりと掴まれてしまった。爪は生えておらず、もふもふと柔らかではあるが、驚いた。幼い姿であっても、こんなにも生きる力に溢れている。
人間の赤子も手のひらに指を乗せれば掴むとは聞くが、それに近いのかもしれない。頭の片隅で冷静な自分が判断する。
かじかじ。かじかじ。
指を、齧られた。歯も揃っていない、柔らかな口でかじかじとされ、くすぐったい。何なのだろう、これは。
「あの……」
離してもらえないだろうか。躊躇いがちに声を掛けてみる。
大きな瞳で、見上げられた。
どうしよう、可愛らしい。何だろうこれ。何かの罠なのだろうか。幼い獣とはこんなにも愛らしいものなのだろうか。私は、知らない。知らな、かった。
指の一本や二本……腕一本くらいなら齧られても構わない気がしてくる。
声をかけられたものの、何もないと判断したのか、幼獣は動きを再開する。
かじかじ、ぺろぺろ。ぺろぺろ。
何だろう、これ。くすぐったい。けど、もうずっとこのままで居たい気がする。しかしそれは、自分がダメになる気がする。大切だった何かが崩壊する気がする。
しかし……。
チラと幼獣を見る。ぽっこりとした腹を手に押し付けて、短な前足で懸命にくっつけて、齧ったり舐めたりを繰り返している。
可愛い。何かが崩壊したって、いいかもしれない。頬が緩みっぱなしなのを隠すことも忘れていることに、私は気付かない。
「シュネー。美味しい、ですか?」
名を呼ばれた幼獣は、齧るのをやめて顔を上げ、みぃと元気に鳴いた。
←----------------------- キリトリ -----------------------→
子育て日記。その2。
最終破壊兵器、シュネー。
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