Magnolia

「報告いたします、旦那様、奥様」
「ええ、どうぞ」
「では、いつも通り、アルトゥール坊ちゃまの定期報告をさせて頂きます」
　いつも通りの白薔薇の咲き誇る庭園で、紅茶のカップを傾けながらクラウゼヴィッツ夫妻は耳を傾ける。

「――最近、ご執心の幼女がいらっしゃるようでございます」

　白薔薇の園に一陣の風が吹いた――。

　片手の内に収まりそうな小さな身体を掴んで、もう片方の手でミルクを染み込ませた脱脂綿を掴んだ。
　ぴぃぴぃと甘えた声を出す鼻先に近付けると、ひくひくと小さな鼻をうごめかして――
「あ」
「坊ちゃま！」
　乳を含むように脱脂綿を口に含んだ姿に思わず声が漏れた。
　息を潜めて伺っていた家の者たちもホッと息を吐き出し、嬉しそうに顔を見合わせ合う。やりました、やりましたわ！明るい歓声に手を叩きはしゃぐ可憐な声が響いた。
　幼い獣は、母の乳房を揉んでいるつもりなのか小さな手足を動かして、ぴぃぴぃと鳴くのも忘れ、腹を満たそうとしていた。

　この子はちゃんと、生きようとしている。
　母も無く。母を奪った私の手の内でも、強く生きようとしている。



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別名：アルトゥール、子育て日記。その1。

Blumchen：小さな花