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(――カタン。)



(カタン、と小さな音がした。)


(…そんな気がして目蓋を上げた所で、己が寝入っていた事に気がついた。)


「アクスヘイム建国の大英雄を祖先に持つ名門、アックス家も堕ちたもの…か」
目を通していたニュースペーパーから顔を上げ、ふと言葉が漏れた。先日の大きな戦い、そして知人達の言葉を思い出したのだ。
アクスヘイムという都市の名は、元々は『アックス家の領地』を表す『アックスヘイム』であったというくらい、アックス家は名門中の名門の家柄だった。アクスヘイムに住まう古くからの貴族であれば常識にも等しい事であり、六英雄の子孫と言う事しか取り得の無い家とは言え、かの家の衰退を良しと思う者は少なかった。自分達の地位の為にも、歴史は必要だからだ。


「坊ちゃま」
遠慮がちに声を掛けられ、考え事を打ち切り顔を向けると長年仕えてくれている女中頭・ノーラと目があった。
「整いましてございます」
「あぁ、わかった。すまない、今行く」
短く応え、身体を預けていたチェアから身を起こし立ち上がると、ノーラが肩へと上着を掛けてくれた。ノーラは、そっと瞳を伏せ会釈をしてから先に立ち、扉を開けて立ち止まると、私を先へと促した。
この屋敷に仕えてくれるみなの主として、前に立ち伝えねばならない事があった。前々から伝えていた事ではあるのだが、再度伝えるのは少々が気が引けた。気怖じしている自分に気付くと、自然と自嘲の笑みを浮かべてしまう。
案じているようなノーラの目線に気付き、大事無いと呟いて、顔を上げて前だけを見つめ、部屋を出た。
――音がした


(上質な石壁よりも奥まった位置にある扉に手を掛けて、中へ。)

カラン。
木枠とステンドグラスで作られた扉に付いたベルが、軽い音を立てた。
外は眩い昼中だと言うのに、室内は薄暗く、紫煙がまた暗さを引き立てていた。
入り口に控えていた男に声を掛けられる前に此方へと手を上げた男に気付き、連れが居る事を目線で示す。男は恭しく頭垂れると、数名の男達がカードゲームを興じるテーブルまで案内をする。
「よう」
「やあ」
口々に軽い調子で挨拶をしてくる数名の男達は、みな見知った顔であった。此方も外套と帽子を案内してくれた男に渡しつつ、口だけで軽い挨拶を返した。
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