Magnolia

視線を向けられて。躊躇う気配に。意を決して、聞こえる呼気。

声を掛ける声を遮って

　「わかっている」

ぱたり。
軽い音を立て、私は本を閉じた。

三勇者の戦いの後、家の者は慌ただしかった。
それは「常より」と言うだけで、世間一般のそれとは違うかもしれない。
しかし、慌ただしく、私には感じたのです。

家の者が私がどう動くのか、見つめている気配を感じる。
ただ黙したまま書物を手に取った私を諌めようとしているのか。
連絡の取れない父母の安否を聞きもしない私を、……。


触れた温もりを視線で追えば、細君の姿。
手を取って、「大丈夫だよ」と微笑む私の陽。
もう片方の手の平にスリ、と触れる柔らかな毛並み。
私の大切な宝物。

外界を知らず、過ごしたあの土地も。
離れて過ごしたあの土地も。
そこで過ごす民たちも。
そして、父や母も。
私の大切な宝物なのだ。

愛しい細君の頬に触れて紡いだ言葉に、とびきりの笑顔をくれたから、間違いではないと知る。
触れた暖かさ、柔らかさ。何度触れても愛しさしか湧きあがらない。
離れがたさを感じながらも、手を離し、体を離して。
けれど、心だけは貴女の側に、と願うのです。




先に、調査にだけいきます。
大丈夫。見てくるだけです。

それでは、いってきますね。